Quantumleap
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スプラトゥーン3をプログラマ視点で語る

スプラトゥーンの完成度について#

正直、アーリーアクセス版と言われても仕方のない完成度です。

そもそもアーリーアクセス版とは何なのか、何故スプラトゥーンはアーリーアクセス版と言われても仕方がないのか解説します。

アーリーアクセス版#

アーリーアクセス版というのはゲームがある程度遊べる状態になった未完成の段階での製品のことです。

なんで未完成のものをリリースするのかと言えば、例えば何らかのレベルデザインをする際に製品版にしてからユーザーの意見をきいて変更するよりも「だいたいこんなゲームなんだけど、難易度はどうすべきだろうか」みたいな形でリリースしておいて、ユーザーの意見やフィードバックをきいてから実装するほうが二度手間にならずに楽だからです。

つまり、アーリーアクセス版とは言葉を変えただけのパブリックベータ版であり、ベータ版というと如何にも未完成という感じがするのでアーリーアクセス、という言葉に変えているわけですね。この辺は中古商品を Used(使用済み)ではなく Open box(開封済み)に置き換えるのと似たような感じがしています。

という認識なんですが、違ったらすみません。

要するに、遊べる段階ではあるがゲームの難易度調整や、バグ修正などは完了していない段階はあるがそれを容認できるユーザーにテストしてもらうのが「アーリーアクセス」というわけです。

とは言っても私はいちユーザーに過ぎないので、以後「アーリーアクセス版です」と言っているのは「アーリーアクセス版と言われても仕方のないのない出来です」の言い換えだと思ってください。

スプラトゥーン 3 は何故未完成なのか#

これはイカ研究所上層部、あるいは任天堂からの発売日に対する厳格なノルマが原因ではないかと考えられます。

指摘を頂いたが、他のビッグタイトルとローンチが被らないようにという意図もあったかも知れません

つまり、スプラトゥーン 3 は任天堂にとっての目玉商品、ビッグタイトルであるが故に発売日の延期が認められず、結果として未完成のまま、意図せずアーリーアクセス版のような形になってしまったというのがエンジニア視点からの見解です。

何故発売日の延期が認められなかったのかについてはいろいろ思うところがありますが、確実なところはわかりません。

第一、スプラトゥーン 3 は 2022 年夏に発売の予定だったはずです、9 月 9 日が夏と言われても正直ちょっと違和感があります。

アーリーアクセス版の根拠#

発売するにあたって修正すべき点は主に以下の三つです。

  • バグ
  • エラー
  • UI/UX

とはいえ、全てのバグ、エラーをなくすことは不可能です。詳しく話すと長くなるのですが、プログラムは自分自身が「この処理実行するとクラッシュするな」ということを判定することができません。

要するにプログラムのバグをチェックするプログラムというのは大変難しい問題なのです。

詳しくはチューリングマシンの停止性問題などで検索

潜在的にバグは含まれているが、ほとんど発生しないので優先度が低いとか、そういうものに関しては後回しでもよいのです。

スプラトゥーン 3 が問題なのは(比較的緩いある条件が整うと)簡単に再現するためにイカ研究所が認知していないわけがないバグが残ったままリリースされている点です。

これについては補足説明。見えないバグを取り去るのは本当に難しく、残っていても仕方ないです。が、今回の件は何度も頻発し、明らかにバグとわかっているものが放置されている点を問題にしています。

バグ#

サーモンランだとオオモノシャケが壁の中に埋まっちゃったり、突然ステージの中に潜り込んだりとかそういうのです。

意図した挙動ではないが、ゲームが進行不可能になるようなものではないものを本記事ではバグとして扱います。

言うまでもなく、スプラトゥーン 3 はバグまみれです。その殆どが容易に再現するので、イカ研は認知しているが修正する時間がなかったと考えられます。つまり、開発時間が全く足りていません。故にアーリーアクセス版です。

エラー#

本記事ではエラーとは意図しない挙動でゲームが進行不可能になるようなバグを指します。

ゲームが進行不可能というのはフリーズしたり、ゲームがクラッシュしたりするものを意味します。本来、バグは少しはあってもいいがエラーは極力少なくするというのが製品版における大原則です。ですが、スプラトゥーン 3 はシーンを変更するだけで再現率ほぼ 100%のクラッシュする手順が見つかっています。

エラーを残したまま販売するということは考えられないので、この手順はイカ研が見つけられなかった可能性があります。が、手順は複雑ではなく単にシーンを切り替えるだけのものです。見つかれば修正されるべきエラーが何故残ったままなのか、答えは簡単でデバッグを誰もしていないからです。

デバッグしていないは流石に言いすぎました。でも、リソース(デバッグする人間、そして時間)が足りていないのは本当です。

つまり、デバッグの時間が全く足りていません。故にアーリーアクセス版です。

UI/UX#

バグではないが、ユーザーの使い勝手が悪い機能がここに該当します。

例えば、サーモンランでプライベートバイトをするときに「フレンドとプライベートバイト」と「ソロでプライベートバイト」の違いが全くわかりません。何が違うのほんとにこれ。

あと、キャンセル、決定の操作が長押しなのもめんどくさいです。長押しなのはそのキーの他の操作と被るからだと思うのですが、正直めんどくさいです。

せっかくなのでここも簡単に文句を言います。プライベートバイトでバイトが終わるとホストは「つづける」か「やめる」が選択肢としてでてくるのですが、失敗した場合デフォルトがやめるになっています。

プライベートバイトの魅力の一つは失敗すれば同じバイトが繰り返せることなのに、なんでデフォルトが「やめる」なのかがわかりません。あと、数秒放置すると自動的にデフォルトが選択されます。スプラトゥーン 2 ではホストがいつまでも選択しないとソフトを終了しない限りゲスト側は抜け出せなかったのでそれはまあいいと思うのですが、猶予が短すぎます。あと、ホントデフォルトがやめるなのをやめろ。

ゲスト側も問題ありで、ホストがリトライを選ばなかった場合には「部屋に参加する」か「抜ける」かの選択が可能なのですが、戻される画面から L を一回押さないとその画面にいけません。

部屋に参加する場合は A 長押しでいけるのですが、そもそも長押しさせるのはめんどくさいですし、抜ける場合には恐らく L が必須になります。このデザイン考えた人、間違いなくエアプです。

いや、別にデザイン作った人がエアプでも、テストした人が「この仕様はちょっと」っていうはずです。つまりテストされていません。故にアーリーアクセス版です。

この辺の UI もまだまだ未完成という感じがします。故にアーリーアクセス版です。

私はデザイン専門職ではないのですが、もうちょっとなんとかならなかったのか感があります

何故発売が延期できなかったのか#

ここは完全に妄想です。根拠もなにもないので、そういう考えもあるか程度に思っていてください。

ビッグタイトルは定期的に発売されなければいけない#

任天堂にとっての主な収益はニンテンドースイッチ本体、及び周辺機器が売れることです。ゲームがいくら売れてもそれはゲーム会社が儲かるのであって、任天堂のメインの収益ではありません。

ビッグタイトルが発売されるということは、そのタイトルを遊びたいユーザーにニンテンドースイッチ本体を買わせるという購買機会になります。スプラトゥーンやゼルダ、マリオといったビッグタイトルに外装がカスタマイズされたニンテンドースイッチが記念発売されるのには恐らくそういう理由があります。

そして、半年(調べてないけど多分そう)に一回行われる株主総会では今期はこれくらいゲームと本体が売れました、と株主にアピールする必要があります。ここでもし販売台数が減ってしまうと任天堂の株式が下降トレンドだと思われてしまうわけですね。

四半期決算に合わせたかったのではないかという、予想も頂いた、なるほど。 ゼルダとスプラトゥーン、二つのビッグタイトルがどちらも延期となればイメージダウンに繋がりかねないですね。

で、最初は別にそこまで発売日に対して厳格ではなかったのではないかと思います。

ところが、2022 年 3 月にイカ研究所にとってとんでもないニュースが飛び込んできます。

ゼルダの伝説ブレスオブ ザ ワイルド続編の 2023 年春への発売延期です。言うまでもなく、ゼルダの伝説は任天堂にとってのビッグタイトルであり、これが延期するということはビッグタイトルを定期的に販売するというスタイルをとっている以上、スプラトゥーン 3 は延期できないことになります。春というのがいつを指すのかがわからないのですが、仮に三〜四月、半年に一回というサイクルと考えると九月〜十月までにはビッグタイトルが一本は欲しいことになります。

夏、と銘打っていたのに販売が九月になったのは「開発が遅れていて本当は延期したかったけどギリギリ発売した」というこの辺が影響しているのではないかと予想できるわけです。

ここまでは任天堂目線から予想していたが、イカ研視点からすれば自分たちよりもビッグタイトルであるゼルダと発売時期を合わせたくなかったという指摘も頂いた。 これも当然で、発売時期が被ったら普通のユーザーはより遊びたい方を買う。そうなるとスプラトゥーンは売上が減ってしまうことが考えられる。

新型スイッチが発売されるのではないかという噂#

もう一つは新型のスイッチが発売されるのではないかという噂が原因です。

とはいえ、普通は新型スイッチを生産する段階になれば特許の取得などの問題で必ず海外のリーカーなどに突き止められる。なにもないってことは開発中かも知れないけれど、まだまだ販売する予定にないのだろう。

バッテリーの改善など、小さなアップデートは繰り返していますが基本的な性能はほぼ五年前の販売当時から変わっていません。その間ソニーが PS4 から次世代の PS5 を販売したことを考えると、いくら任天堂が画質などにこだわらないと言っても「4K 対応、120Hz 対応版のアップグレード版」のニンテンドースイッチを販売するのではないかというのは当然皆考えるわけです。

で、次世代スイッチが販売されると当然メイン商品はそちらになり、旧スイッチは売れにくくなります。正直、有機 EL 版は五年間何もアップデートされてないよねという株主からのツッコミを避けるために渋々販売したのではないかという考えがぼくにはあります。

ニンテンドースイッチは基本的にテレビと繋いで遊ぶことを前提としているので、ディスプレイがいくら綺麗に、大画面になっても、ほとんどのユーザーには関係ないわけです。つまり、本来有機 EL 版としてリリースされるべきだったのはニンテンドースイッチライトであるはずだったのです。

ところが、ニンテンドースイッチライトはあくまでもサブ機であり、メインコンテンツではないわけですね。半導体不足などもあり新型スイッチの開発が進まなかったが、新しいハードはリリースしなければいけない、そしてそれは可能であればスイッチライトではなくスイッチであるべきだった。

そういうところから有機 EL 版が発売されたのかなと思ってしまうわけです。

話が逸れましたが、任天堂は有機 EL 版のニンテンドースイッチを販売しました。有機 EL 版は販売が 2021 年 10 月 8 日です。もしこのタイミングで新世代のスイッチを発表してしまうと有機 EL 版はたった一年足らずで新機種がでてしまうことになります。すると、当たり前ですが誰も買わなくなります。

より性能を求めるなら新機種を、そうでないなら有機 EL 版でない普通のスイッチを買えばいいからです。ですが、新機種を発表しないわけにはいきません。有機 EL 版が新機種との橋渡しであることは察している人は察していますし、アップグレード版を求めるユーザーの声が少なからずあるからです。

そこでスプラトゥーンとのコラボ版を発売して有機 EL 版を売ろうとしているのではないか、と思ってしまうわけです。

アーリーアクセス版の根拠#

というわけで、ニンテンドースイッチ本体の販売ノルマや、ロードマップ、ゼルダの販売延期からスプラトゥーンは延期することが許されず、開発に十分な時間が割けなかったのではないかと考えられるわけです。

が、ゲームの仕組み等に詳しい方ならちょっと「ん?」と思うところがあるかも知れません。

何故ならスプラトゥーン 3 は同じスイッチベースのスプラトゥーン 2 の後継ソフトなので 2 のときの開発環境がそのまま利用でき、例えばモデルデータを追加するだけで新キャラや新ステージに対応できるので、開発が遅れる理由にならないのではないか、と。

ここについてもいろいろ解説します。正直、スプラトゥーン 3 がスプラトゥーン 2 の路線からの思い切った進路変更を取らなければ、問題なく販売できた可能性は十分あります。

技術者トップか上層部か、誰かはわかりませんが「この新機能を使えばもっとゲームが良くなるはずだ」という恐らく悪意のない純粋なゲームをより良くしようという試みが空振った結果とも言えるでしょう。

サーバーシステムの変更#

スプラトゥーン 2 ではマッチメイキングにあたって NEX と呼ばれるシステムが使われていました。これはニンテンドー 3DS/Wii U の自体から使われていた、いわばネットワーク関連における秘伝のタレのようなものです。古いシステムである以上、見つかったバグはほとんど修正されて安定していますが、スプラトゥーンのような低遅延、高品質、そしてセキュアな通信を行う場合には機能が不足していることもありました。

NPLN について

そこで、スプラトゥーン 3 ではこれまでの NEX のシステムを切り捨てて最近バージョンが 1.0.0 になったばかりの新しいサーバーシステム NPLN を採用することにしました。ここで重要なのは NPLN を採用しているオンライン特化のゲームはスプラトゥーンが初めてで、他に NPLN を採用したゲームはモンスターハンターライズとポケモンレジェンドだけで、どちらもプレイヤー同士のオンライン対戦を重視したゲームではありません。

で、これが最も大きな失敗であったと考えられます。

NPLN が悪いのか、それの扱い方が悪かったのかどうかはわかりませんが、NPLN を採用したばかりにスプラトゥーン 3 はラグまみれのまともにオンライン対戦ができないゲームになってしまいました。

NPLN について(追記)#

記事を書いた当初、何故か私は NPLN をプレイヤー同士の通信間の符号化方式のようなものと考えていたのですが、単にサーバーサイド側の実装の問題だったようです。

ここには大きな誤解があり、バトル中のプレイヤー間の通信はサーバーを経由しない P2P 通信であるため NPLN を利用したからといってそれが即ちラグの原因とはなりません。

NPLN は利用されているものの、あくまでもサーバーサイドの話であり、スプラトゥーン 2 の場合にはプレイヤー間の相互通信には PIA ライブラリを用いた P2P 通信が行われていました。P2P は中間サーバーを利用しないためスマブラやスプラトゥーンのようなオンラインマッチメイキングをするゲームでは最適の通信方法だと考えられています。

では何故ラグが目立つようになってしまったのか考えてみます。

1. NPLN が原因#

スプラトゥーン初代ではオンライン対戦中にも定期的に AWS 上のニンテンドーサーバーとやり取りしているそうです。

Splatoon(スプラトゥーン)のナワバリバトルをパケットキャプチャして解析してみた

同じ結果が別の方からも報告されているので、これは信用しても良い結果だと思います。

実践イカパケット解析

普通に考えるとオンライン対戦中にはプレイヤー間以外の通信は不要なはずなので、データ収集などに使われているのかなという予想ができます。

一つ目は、これが NEX から NPLN に変わったことがラグの原因ではないかという考えです。

この通信が NEX から NPLN に変わったという根拠はない、あくまでも予想

ただ、2 と比べて 3 がラグまみれになるほど定期的に通信を行っているとも考えにくく、この線は薄そうな気がします。

2. NPLN が原因(アンチチート)#

もう一つはアンチチートのための処理がラグの原因ではないかという予想です。

よく知られているように、スプラトゥーン 2 ではチートが有効になっているとバトル開始から 5 秒で切断されてしまいます。これは romfs と exefs と呼ばれる二つのファイルシステムのハッシュを計算して、不一致であればネットワークから切られるという処理がされているそうなのですが、これがバトル中にサーバーに送られているのがラグの原因ではないかという考えです。

ちなみに romfs 全体のハッシュを計算すると重いので実際にはチートに使われていそうな三つのコンポーネントのハッシュが使われているのだとか。つまり exefs が一種類、romfs が三種類で全部で四種類のハッシュが使われているとか(記憶曖昧)

ただ、よく考えればアンチチートはマッチメイキング中またはバトル終了後にだけ行えばいいので(バトル中にチートを無効化有効化するみたいなことでなければ)、バトル中が重くなるのは考えにくい気もします。

第一、つい最近現れたスプラトゥーン 3 のチーターは 5 秒切断を食らっていなかったので、そのチーターがアンチチートをバイパスしたか、もしくはそもそも 5 秒切断が実装していない/あるいは機能していない可能性があります。

どちらにせよ、この線も薄そうな気がします。

プレイヤー間の通信品質を軽視している#

個人的に一番ありそうなのがこれです。

スプラトゥーン 2 では比較的近い(通信遅延が少ない)プレイヤーとマッチメイキングされるような仕組みになっていました。なので、仮にスプラトゥーン 2 が国内版であっても海外で遊ぶと海外のプレイヤーとしかマッチングしませんし、海外版のスプラトゥーン 2 であっても日本で遊べば日本のプレイヤーとマッチングします。

3 でもそうだとは思うのですが、2 でのマッチメイキングの不満として挙げられていた編成格差をなくすことを重視したあまり、プレイヤー間の通信品質が軽視される形になったのではないかという予想です。

ここはかなり難しい問題で、オンラインマッチメイキングにあたっては「マッチメイキングの早さ」「マッチメイキングの公平さ」「プレイヤー間の通信品質」が重要になってきます。如何に公平で、通信が安定していたとしても一回バトルをするのに五分も待たされていてはユーザーは離れていってしまいますし、マッチングが早くて通信が安定していてもチーム間の実力が離れていては一方的で面白くないゲームになってしまいます。

2 のときはめちゃくちゃマッチメイキングが早かったイメージがあるので、3 に比べて「すぐに遊べる」という点が重視されていたのかなあと考えています。

ところが、マッチメイキングの公平さに対する不満があったことから、3 ではそこを改善しようと考え、結果としてプレイヤー間の通信品質が重視されにくくなったのではないか、と考えられるわけです。

そうであるなら「3 が 2 に比べて頻繁にエラーで回線落ちする」などの現象も一定の理解ができます。初代の頃ではパケットロス率が 1%あると通信エラーが発生するときいたことがあるので、同じような仕組みになっているのであれば「最低限保証される通信品質のレベルが下がったのでエラーで回線落ちが増える」というのは当然のことだと言えるでしょう。

なんだかこれは意外とあり得そうだなという気がしてきました。

非同期が積み重なっている#

検証が難しそうなのですが、これもラグに見える現象としてあり得るのかなと考えています。

スプラトゥーン 2 ではお互いの位置を定期的に合わせていたと考えられます。というのも。例えば A と B の二人がいて一方のプレイヤーだけが(ここでは B とする)がチートで空を飛んだ場合に、

B 視点で空を飛んでいるのは当然として、A 視点からでも B が空を飛んでいるように見えたためです。更に、A はチートが有効化されていないため B が重力で落下してくると予想?して落ちてきている B が見えるのですが、先述した定期的な位置合わせで B 本人の位置がより優先されるため A 視点では B が落下、急に本来の位置に戻る、B が落下を繰り返しているため上下にものすごい勢いで動いているように見えます。

これはチートでなかったとしても「他のプレイヤーがブロックから降りたように見えたのに急に上に戻った」のような現象を体験したことがあると思います。

少なくともスプラトゥーン 2 において「互いの位置は定期的に同期されており、自分視点の相手の位置よりも、相手が送ってきた(それが仮に不正な値であったとしても)位置の方がより優先される」ということは間違いないように思われます。

ところがスプラトゥーン 3 ではその頻度が下がったのか、相手本人よりも自身の座標を優先するようになったためか、本来撃てない相手を射抜くことが可能になっています。

これだけだとわかりにくいと思うので具体例を挙げると、例えばブロックの端でウロウロしてるプレイヤー B を狙っている A がいたとき、僅かな誤差から B 視点ではブロックの上にいるが、A 視点ではブロックの下に落ちたというような状況が発生します。

スプラトゥーン 2 であれば A からは落ちたように見えるのですが定期的な位置同期で B の位置が優先されるため、すぐに B はブロックの上に瞬間移動します。ところがスプラトゥーン 3 ではこの瞬間移動が発生しない場合があり、そのあと B が移動したとき場合「A 視点ではブロックから落ちた B がブロックに引っかかり続けているのに、B 視点ではブロック上をどんどん右に移動している」というようなプレイヤー間でのズレが生じる場合があります。

このとき、無防備な B を A が撃ち抜くと B 視点では全く狙えないところにいたはずの A から撃ち抜かれてように見える、というわけです。

キル判定などはどちらが優先されるか、などはまた難しい問題。誰か調査していたような気もします。

上に挙げたのは極端な例ですが、このような小さな位置ズレが積み重なってラグのように見えているのではないかという予想です。

で、2 にはなかったこのようなズレが生じたのはメモリープレイヤーが原因なのではないか、という予想もあります。ただ、これは書くとものすごく長くなってしまうので割愛します。

今後の展望#

さて、スプラトゥーンが今後のアップデートでどうなっていくかをエンジニア目線で予想してみます。

オンラインマッチメイキング#

しばらくの間は直らない可能性が非常に高いです。

システムの根幹の変更というのはそのくらい大きな変更だということです。恐らく、現在ラグの原因が NPLN のそもそもの仕様なのか、ゲーム側の問題なのか、サーバーの問題なのかの原因究明をしている最中だと思われます。

この特定にどれだけ急いでもまず一ヶ月は要すると思います。で、原因がわかったとします。それがゲーム側の問題だった場合、修正してなんとかなるかも知れません。

が、NPLN の仕様で改善不可能だった場合どうするのかという問題があります。先述したように、NPLN を使ったオンラインマッチメイキングが主体となるゲームは一つもありません。低遅延を重視しているゲームも一つもありません。NPLN を使うという選択をした以上はマッチメイキングはより良くなるというはずだったのですが、なんでこんな事になっているのかわかりません。

そしてそもそも仕様だった場合改善のしようがありません。こうなった場合、サーバーシステムを NEX に戻すしかないでしょう。

これに一体どれだけの時間がかかるのか、想像したくもありません。

スプラトゥーン 3 におけるラグなどの問題が直近のアップデートで改善されることは 99%ありません。

と書いたのですが、NPLN への変更、及びサーバーサイドの問題ではなかった場合、修正はそう難しくないかもしれません。

特に、3 のプレイヤー間の通信品質の問題だった場合には、マッチメイキングが遅くなったりする・編成の公平性が失われるということはあるかもしれませんが、すぐに対応できるのではないかと思います。

ところで、多くのプレイヤーはチーム分け(編成差、実力差)は公平だけどラグが発生するようなゲームか、ラグは発生しにくいけど編成が公平でない場合があるゲームとどっちが受け入れやすいのでしょう?これ、実は少し気になっています。

サーモンラン NW の問題#

ここからは本題とあまり関係ないというか、個人的にサーモンランばっかりやっているので目につく問題というか、そういうのを挙げていきます。

サーモンランにおける問題は以下のとおりです。

  • オブジェクトがオブジェクトを貫通する系のバグ
    • モデルデータの仕様を変えたことが原因かと思います
    • 前作には壁判定として KCL と呼ばれるファイルがあったのですが、恐らく今作では使われていません
    • 旧作と同じ仕様にしておけばこんな問題は起きなかったので、完全に仕様変更が原因です
  • パラメーターの未調整
    • これについては後述します
  • 通信関連
    • NEX を NPLN に変えたことによる問題です

オブジェクト関連のバグ#

正直、ここまで酷い作品になるとは思っていませんでした。むしろ、あそこまで完成していた作品を五年かけてこんなゲームにできてしまうのかと驚いています。

ゲーム性はさておき、五年かけて完成した仕様を全部変えたためにありとあらゆるところがバグまみれになりました。

コードの修正で X というバグがでないようにすることはできるかと思いますが、それは場当たり的な対応でしかなく、そのようなバグ修正は根本的な解決になりませんし、必ず別のバグ Y を生みます。オブジェクト関連のバグに関して言えば正直、どうやって直せばいいのか皆目検討も付きません。KCL を利用する旧システムに戻すくらいしか思いつきません。

現行のシステムを使い続ける限り、すぐに直ることはないでしょう。

で、このバグが頻発している以上、任天堂がローンチ前にこのバグを認識していたことは間違いありません。が、ゲーム全体が進行不能になるわけではありませんし、ゲームがクラッシュするわけでもありません。わかっていたけど優先度が低いので放置された類のバグです。

しかしながら、エンジニア目線で優先度は低くてもユーザーから見れば何だこれと思うのは間違いないです。だってこの種類のバグはスプラトゥーン 2 ではほとんど発生しなかったからです。スプラトゥーン 2 でヘビが変なところから降りてきたり、ステージ内部に侵入してしまったりしていたのは当たり判定である KCL を恐らく自動生成したときに僅かな隙間が発生していたためで、それを手動で直してしまえばそれで良かったわけです。

が、今作ではどうも KCL が使われていないためどうやってオブジェクトの接触判定をしているのかがわかりません、いや、ほんとこれどうするんでしょう。

パラメーターの未調整#

スプラトゥーン 2 ではカタパッドの下のジェットとサーモンランにおけるジェットパックのジェットは全く同一のファイルを参照していました。

なので、迂闊にファイルを変更してジェットパックのジェットのダメージや範囲を上げたりするとカタパッドが出現した瞬間にプレイヤーがデスします。なんで共通のファイルを利用しているのか、意味がわからないのですが、まあそこはいいです。

で、恐らくスプラトゥーン 3 でも同様のファイルの再利用は行われていて、マルチミサイルとカタパッドのマルチミサイルのパラメータは同じものを使用しています。よって、マルチミサイルの追尾性能が上がるという強化を受けたため、カタパッドも同様に強化されました。

サーモンランのキャラクターがエリアを塗るだったり、チャージャーで狙うだったり、ボムを投げるだったりバンカラマッチに必要な動きを練習するための場であるとするなら、同じパラメーターを使うのもわからなくはないのですが、急に強くなっていて「なんでなん?」感はあります。

イベントごとの差異#

これも何度でも言いますが、明らかにテストプレイが足りていません。特に、高難易度でのテストプレイが全く足りていません。

旧作から夜イベントは二つ増えて全部で八つになりました。それらをまとめると以下の感じ。なお、個人の主観が多分に含まれています。

イベントクリア期待主な失敗理由
なし-
グリル発進納品不足
ゼンメツ
キンシャケ探しほぼ確実納品不足
ハコビヤ襲来確実納品不足
ドスコイ大量発生ゼンメツ
ドロシャケ噴出納品不足
ラッシュゼンメツ/納品不足
巨大タツマキ確実納品不足

ゲームデザイン的にどうなんだというツッコミはさておき、いくらなんでもイベントごとの格差が大きすぎます。

発生確率はどれも 3.125%ですが、ハコビヤ襲来と巨大タツマキが体感勝率 95%以上なのに対して、ラッシュが難しすぎます。誤解のないように言うとラッシュが難しすぎるのは悪いことではないです、だって前作よりも最高難易度を 133%もアップした高難易度版が NW なのですから。

にもかかわらず巨大タツマキとハコビヤ襲来は相変わらず簡単なままです。いや、ハコビヤ襲来がレベルデザイン変更が間に合わず据え置きになったのはまだいいとして、新しく追加した巨大タツマキが簡単すぎて勝ち確定なのはどうなの?という気がします。

イクラ投げとイカロールを練習させたかったのだと思いますが、慣れてくると時間の無駄でしかありません。正直、クリア確定なので WAVE 開始直後にそのままクリア表示出してほしいです、100 秒という時間がもったいないので。正直、巨大タツマキが修正されるまではぼくがオンラインでサーモンランをやることはないでしょう、本当に時間の無駄です。

評価 40 に下げられる#

これもなんでこの仕様に戻したのかがわかりません。

フレンドと遊んでレートが上がると、実力不適応なキケン度に晒されてソロで遊んだときに他のプレイヤーに迷惑がかかるからマッチメイキングが正しく機能するように全員 40 に戻る仕様にしたのかも知れません。

が、実力不適応なら何もしなくても今作が難易度が上がったこともあってレートはどんどん溶けていって勝手に下のランクに落ちるのでそこまで問題ではないかと思います。下手な人を残り三人がキャリーして勝てるほど、今作は簡単ではないです。

40 に下げられることもあり、999 に到達するには全勝したとしても 48 回バイトする必要があります。仮に全くエクストラウェーブがこなかったとしても一回七分なので六時間くらいかかる計算になります。

実際にはエクストラウェーブはくるし、マッチメイキングの時間はあるしでもっとかかる

で、今作はサーモンランの開催期間は 40 時間です。40 時間のうち最低限 6 時間ゲームをしないといけないってどんな仕様ですか?世の中そんなに暇な人ばかりじゃないんですよ。

これもぼくが今作を全く遊ばない理由の一つです、完全に時間泥棒。

999 がやりこみ要素の自己満足だったらそれはそれでいいのですが、各ステージで 999 まで到達しないともらえないバッジがあります。プレイヤーがやり込む前提でいるわけです。

普通の人なら二日(48 時間)で勤務時間、睡眠時間を考慮すると長く見積もっても 18 時間前後しか平日に自由な時間はないと思います。そのうち 1/3 をゲームにあてる人がどのくらいいるのでしょうか。

まとめ#

スプラトゥーン 3 はまともになると思う?いいえ、ならないと思います。

と思ったけど、意外と直ぐにバトル中のマッチメイキングは改善するかも、と思い始めてきました。

願わくばこの予想が外れますように。

スプラトゥーン3をプログラマ視点で語る
https://fuwari.vercel.app/posts/2022/09/splatoon3/
Author
tkgling
Published at
2022-09-25